
プロパンガスは、設置したボンベから供給されるサービスです。
当然ながらボンベ内のガス量は、使用するごとに減っていきますので、無くなる前に交換しなければなりません。
またサービスの特性上、顧客宅でガス漏れなどの事故が起こった際、従業員が駆けつけなければならないという保安上の義務を負っています。
このような理由から、プロパンガス事業者は、供給地点から最寄りの営業所までが一定の範囲内でなければならないということが、法令で定められているのです。
このページでは、プロパンガス会社の保安管理や供給可能距離について解説しています。
尚、ここでは一般の住宅やテナントビルなど、供給契約を交わしてメーターを取り付けた上でLPガスを供給する形での解説をしています。催事場やバーベキュー、移動販売車などで一時的に使用するLPガスは、解説対象外ですのでご注意ください。
目次
プロパンガス会社は保安業務を行う義務を負っている

LPガス事業に関する法令・液石法(液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律)では、事業者の義務について以下のように定めています。
液化石油ガスによる災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該液化石油ガスに係る一般消費者等からその事実を通知され、これに対する措置を講ずることを求められたとき、又は自らその事実を知つたときに、速やかにその措置を講ずる業務
液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律 第三章 保安業務(保安業務を行う義務)第二十七条四項
プロパンガス事業者は、ガスの供給と同時に災害(ガス漏れなどの事故や火災・自然災害など)が発生した際に、速やかに対処することが義務付けられているのです。
基本料金に保安管理が含まれている
プロパンガス会社と契約している方は、毎月基本料金を支払っているかと思います。
この基本料金の中には、ボンベの配送や保安業務が含まれています。ガス会社のスタッフに緊急出動してもらってとしても、別料金が発生することはありません。
また基本料金は、ガスを使っていなかったとしても毎月支払わなければなりません。ガス会社と契約した時点で、顧客がガスを使用していなかったとしても、事業者側は保安に関する責任を負うことになるのです。
保安距離

顧客の安全に関する義務を負っているLPガス事業者ですが、その範囲についても決まりがあります。
一般のLPガス事業者は「原則として30分以内に到着しなければならない」と定められています。
これはガス会社が使用するガス緊急車両が基準になっています。事業者の中には、緊急用自動車を所有していない企業もありますので、その場合には一般車で向かった場合となります。
この決まりは、通称で「30分ルール」と呼ばれることもあります。距離にすると20kmが目安です。
つまりプロパンガス会社は、最寄りの拠点から供給地点まで30分以内に駆けつけられる範囲でなければ、供給契約を交わしてはいけないのです。
事業者には、災害時に対応することが求められている訳なのですが、「何時間かかっても良いから」駆けつければ良いということではありません。
当然ながら緊急事態な訳ですので、なるべく早く現場に駆け付けることが望ましいでしょう。現場に到着する時間や距離の上限を定めているのです。
ただあまりにも短くしてしまうと、「供給できるガス会社が限られてしまう、またはいなくなってしまう」ということになりかねません。
保安距離の例外

ガス事業を管轄する経済産業省は、保安距離に関して二種類の例外を定めています。
特定の事業者として認定を受けたガス会社は、通常30分以内と定められた保安距離が緩和され、40kmまたは60kmまで供給可能とされています。
認定に関しては、保安を確保する手法として「集中監視システム」などを導入し、より高度な保安管理を行うことに積極的に取り組んでいることが基準とされています。


簡単にいえば、「事故を未然に防ぐ」且つ「事故が発生した際にいち早く察知することができる」ための設備設置などを積極的に行っている事業者は、保安距離が伸ばされているのです。
このような措置を行うことにより、事業者が安全対策に積極的に取り組むことを期待することができます。
またそのような優良と呼べる企業の供給可能範囲が広がる上、供給できる事業者を増やすことで競争を促す効果もあると考えられるでしょう。
事業者側としても、供給距離が伸びることにより必要となる拠点の数が減り、効率よく事業拡大ができるようになります。
近年では、機器の進化に伴いプロパンガスの事故が発生する回数は減っているので、効果的な制度だと考えられます。
保安認定事業者(第二号LPガス販売事業者)

認定LPガス販売事業者の一つ目は「保安認定事業者」または「第二号LPガス販売事業者」と呼ばれるガス会社です。
保安認定事業者として認められれば、40km以内であれば緊急時の対応ができるとみなされます。
認定要件は
- 法令で要求する機能を持った遮断弁を有するガスメーター・調整器等の保安確保機器を一般消費者等に設置していること。
- 法令に基づいて保安確保機器の期限管理をしていること。
- 無線等の通信手段を利用した集中監視システムを設置し、緊急時には一般消費者等のガスメーターの遮断弁を遠隔遮断できること。
「上記の3点をすべて満たした一般消費者等の割合が50%以上である」ことが条件とされています。
簡単に言うと、「集中監視システム」を導入・適用している顧客の割合が50%以上であることが条件です。
この条件をクリアすれば、「原則30分以内に到着」とされている緊急時対応の要件が緩和され、「40km以内に到着」であれば適合しているとみなされることになります。
ゴールド保安認定事業者(第一号認定LPガス販売事業者)

認定LPガス販売事業者の二つ目は「ゴールド保安認定事業者」または「第一号認定LPガス販売事業者」です。
こちらは先に紹介した第二号LPガス販売事業者の上位に位置するものです。
認定要件は、上述した「集中監視システムを導入している顧客の割合が70%以上であること」が条件になっています。
ゴールド保安認定事業者の特例
さらにゴールド保安認定には特例が設定されています。
【一般消費者等の設置する燃焼器の全て(飲食店以外の場合には湯沸器、ふろがま、ストーブの燃焼器)は以下のいずれか要件を満たした場合には、追加特例を受けられる。】
- CO警報器を設置し、ガスメーターと連動して遮断できること。
- 不完全燃焼防止装置が付けられていること。
- 燃焼器が屋外式であること。
この要件のどれかをクリアすることで特例を受けることができます。
つまり顧客宅に設置されているすべてのガス機器に対して、上記3点のうちどれか1点を対応していることが条件です。
ゴールド保安認定事業者に認定され、さらに特例条件をクリアすれば、「60km以内」にまで供給可能距離が緩和されます。
尚、ゴールド認定を受けることにより設備点検時期の緩和など、供給距離以外にも特典を受けることができるのですが、別ページで解説しています。


保安距離まとめ

LPガス事業者の供給契約を結ぶことが許される保安距離は、
- 一般の事業者は30分以内
- 保安認定事業者は40km以内
- ゴールド保安認定事業者(特例を満たす)は60km以内
となります。
最寄りの営業所から上記の範囲内であれば、LPガスの供給契約を結ぶことが認められるのです。
この距離に関しては、あくまでも目安となります。
例えば保安範囲内の建物であったとしても、道路が入り組んでいる、車が通ることができないなど、顧客の保安管理を確保できない場合には、認定されない可能性があります。後述しますが、行政の調査が入った際に実際に現場まで向かうということもあり得るため、ごまかしは効きません。
保安距離内であれば、どんな物件でも供給契約を結んでも構わないということではないのです。
保安認定する機関
保安認定に関しては、事業者の販売規模に応じて行政が認定を行っています。
- 1つの都道府県の区域内に販売所がある場合:都道府県知事
- 2つ以上の都道府県で、1つの産業保安監督部の区域内に販売所がある場合:産業保安監督部長
- 2つ以上の産業保安監督部の区域内に販売所がある場合:経済産業大臣
2022年12月末時点では、第一号と第二号合計で417者が保安認定を受けています。
外部ページ:認定事業者一覧
自治体などによる例外の保安認定
法令により決められている保安距離については、解説した通り原則30分以内、認定を受ければ最長で60kmとされています。
ただ山間部や離島など、LPガス事業者数が極めて限られている地域に関しては、管轄する行政庁や自治体により例外的に30分以上が認められていることがあります。
現在LPガス業界では、事業者の統廃合が進んでいます。
地方においては顧客数の減少が進んでおり、地域のLPガス販売事業者が廃業またはM&Aにより統合されるケースが増えています。
事業者が統廃合することにより、30分ルールの原則を守ることが難しいお宅が発生することがあります。「法令を厳守」ということになってしまうと、ガスを供給できないお宅が発生することがあるのです。
このようにやむを得ない事例においては、担当の自治体などにより条件付きの特例として、30分以上の距離であったとしても「緊急時対応の条件を満たしている」と判断されることもあります。
これは法令として定められてはおらず、各自治体などの裁量に任されています。
保安距離の監視
LPガス事業者が顧客と供給契約を結ぶ際、この距離を毎回届け出なければならないということではありません。
それでは保安距離は、どのようにチェックされているのかというと、不定期で行われる立ち入り調査にて行政からチェックされることになります。
この調査は、抜き打ちで実施される上、ランダムでいくつかの供給地点をピックアップして実際に行政の担当者とガス会社スタッフが現場に向かい「30分以内に到着できるかどうか」をチェックされたりもします。
そのためガス会社側としても、「30分で到着できるかどうか微妙な場所」の顧客に関しては、安易に供給契約を結ぶことができないという事情があるのです。
保安業務の委託

プロパンガス事業者が顧客と契約を結ぶ際、自社ではなく他社に保安管理を委託するという方法も広く採用されています。
法定以上の距離にあるお宅で自社での保安管理が難しい場合でも、ボンベの配送や緊急時の対応を物件から近いガス会社に委任することにより、合法的に契約することができるのです。
この場合には、顧客が契約を結ぶガス会社の営業所が、かなり離れた位置にあることも珍しくありません。
従ってプロパンガス会社のホームページを見た際、仮に自宅から営業所が離れていたとしても、そのガス会社と契約ができないと決まった訳ではありません。
協力関係にある同業他社に保安管理を委託するという手法は、すべてのLPガス事業者が行っているとは限りません。
ただこの方法を採用することにより、営業所から離れた建物でも顧客の対象とすることが可能になります。営業所を同じ地域にいくつも構える必要がなくなるため、業界内では広く採用されています。
LPガス事業者は、資本関係になかったとしても、保安管理業務などで提携関係にあるということがよくあるのです。
完全に独立して自社のみで業務を完遂している事業者はありません。
このような事情があるため、例えば「保安管理を委託しているガス会社からの顧客は奪わない」という業界独自のルールが生まれる要因にもなっているのです。


ガス事故の際にはガス会社にも連絡を

LPガスに関するトラブルが発生した際、身体に危害が及ぶ状況であれば速やかに119番通報で救急車や消防車を呼んでください。
その際、できる限り契約しているガス会社にも連絡するようにしましょう。
例えばコンロや給湯器などガス機器に関することや、ボンベの移動などの作業の中には、ガス会社でなければ行うことができない内容があるのです。
一般的には、消費者が119番通報した後にガス会社へ通報しなかったとしても、必要に応じて救急隊員がガス会社へ連絡してくれるようになっています。消費者からガス会社へ直接連絡しなかったとしても、最終的にはスタッフが駆けつけるようになっているのです。
ただその場合には、ガス会社のスタッフが到着するのが遅れてしまいます。
もしも余裕がある状態でしたら、消費者ご自身から契約しているガス会社にも通報することをお勧めいたします。
また身体は安全だけどガス事故が起きたという状況でしたら、119番通報ではなく、ガス会社に連絡しましょう。
ガスに関するトラブルは、自身が契約しているガス会社に通報するという選択があることを覚えておいてください。契約しているLPガス会社の緊急連絡先を、わかりやすい場所に見えるようにしておきましょう。
ガス漏れの対処に関しては、別ページで詳しく解説していますのでご覧ください。
参照ページ:ガス漏れ時の対処方法
保安体制
保安義務に関してですが、当然ながらLPガス事業者は、24時間どんな時でも義務を負っています。
夜中であろうとLPガスに関するトラブルが起こった時には、速やかに契約中の事業者へ連絡しましょう。
ある程度の規模の事業者であれば、宿直スタッフが常駐していますので安心です。逆に零細のLPガス事業者の場合には、万全な体制が整えられていない可能性があるため注意が必要です。
小規模のLPガス会社の場合、自宅待機となっていることが多々あります。
いつでも緊急自動車で出動できるよう待機している企業と、自宅待機で普通車で現場に向かう企業では、緊急時の対応に差がでてきてしまうと考えられます。
緊急時の対応も重要と考える方は、一定規模以上のLPガス会社と契約することが好ましいでしょう。現在、小規模の企業と契約している方は、切り替えをご検討ください。
当社では、ガス会社切り替えの相談を承っていますので、お気軽にご相談ください。

